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園長の「給田だより」(2018年7・8月号)

2018/07/13 13:35:02

親父(おやじ)のDNA!」  宝の山から出てきたもの

5年前の父の脳梗塞、母の胃癌の発症を境として、我が家の状況、とりわけ私と両親との関係は一変しました。長年にわたってできなかった分を取り戻すかのように、私と家内はしばしば愛媛県松山市に帰省することになりました。もちろん、両親の見舞いのためなのですが、その他にも、ゴミ屋敷と化した実家の片付けという目的もありました。「給田だより」2013年9月号に寄稿した自作の川柳「ゴミ屋敷 宝の山と 老母(はは)は言う」が、片付けに関する微妙な事情を表現しています。というのも、「ゴミを処分しなければ、二進(にっち)も三(さっ)進(ちも)もいかない」という私の考えと、「家にあるもので無駄なものは何一つない。いつかは必ず何かの役に立つから、捨てられない」という母の考えとは、平行線を辿(たど)るばかり。内心の葛藤は、かなりのストレスとなりました。5月のゴールデンウィークと8月の旧盆前後という限られた時間の中で、家内の絶大なるサポート(というよりも、片付け隊の隊長は、むしろ家内のほうでしたが…)のお陰で、やっと先の見通しがついてきた、というのが現在の状況です。実家の片付けが進んできた今の心境を、同じく川柳にするならば、「ゴミ屋敷 断捨離すれば 宝物(ほうもつ)館(かん)」。5年前、大量のゴミを前に立ちすくんでいたことを思えば、隔世の感があります。残念ながら、実家に眠っていたものの中に、高価なものは見出せませんでしたが、今では「よくぞ残しておいてくれた」という思いに変化しているのですから、人間の心とは不思議なものですね。

数々の表彰状や感謝状、おびただしい数の写真、全国各地を旅した時のお土産品などの歴史遺産(?)、展示場所さえあれば、立派な博物館ができそうです。それらは、90年近くの両親の人生を、私に語りかけてくれます。中でも写真は貴重な資料群であり、必ずしも時系列で目に飛び込んでくるわけではありませんが、脳裏には次第に“年表”ができ上がっていきます。それぞれの幼少期から始まり、二人の出会い、一人息子(私のこと)の誕生・成長、その子の結婚、孫の誕生、孫の結婚、 曽孫(ひまご)の誕生へと、我が家の家族形成が展開していきます。写真以外にも、人生を彩(いろど)るエピソードに連なる多くのアイテムも。仮に、私が二人の伝記を書くとしたら(今のところ、その予定はありませんが…)、必ず一章を設けるのが、父の「卒業証書と成績通知票」と、母の「御朱印帳」です。

昭和4年生まれの父は、昭和39年4月から、自宅近くの県立三原高等学校の定時制に通い始めました。34歳の高校1年生です。帝人三原工場での勤務を終えた後、一旦自宅に戻り、詰襟の学生服に着替え、15,6歳の若者たちの中に飛び込んでいくのです。父が一念発起した理由について、記憶は定かではありません。ただ、学歴を得るという目的もさることながら、どうやら、当時小学4年生だった私の成長を見越して、父親として多少なりとも勉強しておかなければ、との思いがあったようです。約20年間のブランクを経ての学習ですから、時々「赤い数字」(?)が見え隠れしながら、卒業までのプロセスには相当苦労があったようです。しかし、年齢の離れた同級生たちに支えられながら、留年することもなく、昭和43年3月に晴れて卒業。しかも、「4年間皆勤」という金字塔を打ち立てたのです。(因みに、その父のDNAを受け継いでいるのかいないのか、私は、中学時代に風疹で2日間の出席停止がありましたが、小1から高3までの12年間、皆勤でした。)

2月に永眠した母の棺(ひつぎ)に入れさせてもらったのが、四国八十八箇所巡りの「御朱印帳」です。 父と二度にわたって結(けち)願(がん)成就した証(あかし)は、見るからに荘厳なオーラを発しており、私は冥土への道案内を託しました。お骨上げの際、遺骨の足元に残っていたのは、明らかに冊子状のもの。我が目を疑ったものの、すぐに御朱印帳だとわかりました。このことを後日、世私幼の園長会である園長先生(真言宗寺院の御住職)にお話ししたところ、「それはあり得ないこと。よほどの思いがこもっていたのでしょう」とのお言葉をいただきました。改めて、母の信心深さを思い知りました。

 ところで、話は写真に戻りますが、それらを眺めながら、特に印象的だったのは、両親にとっては孫にあたる私の息子たちへの、満面の笑顔と優しい眼差しです。嬉しくてたまらない様子なのです。リアルじぃじになり、可愛い孫たちを目の当たりにして今思うのは、当時の二人の喜びを、どれだけ深く受け止められていたのだろうか、という後悔の念です。今年は、母の新盆(にいぼん)を迎えます。より一層の感謝の気持ちを込めて、「盂蘭盆会(うらぼんえ)」を迎えたい、と心に決めております。

松森憲二拝

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