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園長の「給田だより」(2017年12月号)

2017/12/01 7:18:49

「『子育て三主義』って何?」  ~「思考の三原則」が導いてくれたこと~

三十数年前、恩師である庭野日鑛先生(佼成学園長)からご教示いただいた「思考の三原則」。知る人ぞ知る安岡正篤(まさひろ)先生のご著書『運命を創る』(プレジデント社)には、以下のとおりに記されています。

  1. 目先にとらわれないで、できるだけ長い目で観察する。
  2. 一面にとらわれないで、できるだけ多面的、できるならば全面的にも考察する。
  3. 枝葉末節にとらわれないで、できるだけ根本的に観察する。

上の三原則を踏まえ、普段私が子育てについて考えていることを集約したものが、「子育て三主義」です。

1.過程主義(目の前の結果より、そこに至る過程を重視する。そして結果は、あくまでも変化の途中、すなわち通過点と認識する。)

昨年、トークライブで「子育ては、結果より過程が大切」という話をした後、私はメールで、親としては切実な良いご質問をいただきました。それは…。

大人になるとというか、社会に出るとというか、学生でもそうですが、過程ではなく結果が全てみたいな時期がいずれ来るかと思います。その頃がいつなのか、いつから結果重視の子育てに切り替えるのか、もしくは過程重視のまま貫くのかなど、そのあたり少し戸惑いました。

幼児期の今はまだしも、“偏差値”に象徴される競争社会への突入を前提として、いずれは「過程でなく結果がすべて」の時期がやってくるのではないか、とのお母さまの心理、十分に理解できます。だからと言って、「結果」重視の子育てを是認することはできません。時期を問わず、大切なのはやはり「過程」です。地道な努力の積み重ねを軽視するならば、教育そのものが成り立ちません。今を大事に、何事にも一所懸命取り組む姿勢自体が、学力の土台ともなる人間力(意欲・協調性・粘り強さ・忍耐力・思いやり・社会性等の「非認知能力」)を育てるのです。

 かと言って、結果を全く無視していいかと言えば、それもまた極端な考え方です。私は、目の前の結果を、絶対的に評価するのではなく、相対的に評価することが大切だと考えています。相対的評価とは、「その後に繋がると観ていく」ことであり、「その後の変化を信じていくこと」ことです。信頼を基盤とする“長い目”は、子どもの挫折からの復元を支え、「頑張ろう!」というやる気を喚起してくれます。

2.受容主義(子どものありのままの姿を受容し、認め、必ず具わっているその子の良さを見出す。)

幼い子どもたちは、どの子も「無限の可能性の塊(かたまり)」です。本来子どもは、それぞれに違う特性を持っているはずなのに、何かができるようになった他人の子が目に入り始めると、つい我が子と比較してしまい、ややもすると、我が子のできないことに目が注がれていきます。「お子さんの良いところは?」と質問して、年齢が高くなるにつれて即答率が低くなっていく傾向を、私は憂慮しています。ママさんたちは「これできない、あれできない」病にかかりやすい体質を持っている、というのが、ドクターM(?)の診断です。「小っちゃい時には可愛いかったのにねえ…」というつぶやきやため息は、予兆の一つかもしれません。どうかお気をつけください。

 競争社会は、大きな口を開けて親子を待ち受けています。だからこそ、せめて家庭が「安全基地」であり続けてほしいのです。「いつも自分の良いところを認めてくれる」という安心感が、子どもを前に向かせます。まかり間違っても、家庭が率先して競争の旗振り役をするようなことがあってはなりません。

3.目的主義(日々の触れ合いのすべてが、子育ての意義や目的に繋がっていると意識する。)

私は「子育て」を、「子どもの存在を丸ごとかかえ、子どもの持ち味を見出し、それを最大限に伸ばし、子どもを世間(社会)に旅立たせるための一切の親の営み」と意義づけし、その究極の目的を「子どもの自立を図ること」と考えています。「自立」とは、「子どもが、自分のことを自分で考え、自分で決め、自分で責任を取れるようになる(=結果を受け容れられるようになる)こと」です。

すべての経験は「自立」のためにある。そう腹を据えることが、子どものすることしないことに一喜一憂せず、純粋に子どもの成長を楽しめる心境になる近道だと思います。例えば、イヤイヤ期や赤ちゃん返りなども、親を困らせているのではなく、「自立」のために必要なステップ、と受け止めていくのです。

ところで、親が「子育て三主義」を実践するために必要な心構えとは?それは、目の前の現象に一つひとつ白黒つけず、子どもの成長を信じて「待つ」姿勢、近視眼的にならず子どもの全体像をとらえ、積極的に子どもの良いところを「褒める」行為、子どもの尊厳を第一に考え、脅迫や強制などではなく、子ども自身の主体的な自覚を「促す」態度…。

ちょっと…、お待ちください…。「待つ」「褒める」「促す」の頭文字を繋げると、何と「ま・ほ・う」になってしまいました!「子育て三主義」は、「自己肯定感を育てる」という子育ての主要テーマへの、魔法の(実は、地道な)アプローチに他ならないのです。膝突き合わせて、皆さまと熱く語り合いたくなってしまった私。「園長先生とトークしたい人、手を挙げて~!」(何人いるのかなあ…?)

松森憲二拝

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