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園長の「給田だより」(2017年10月号)

2017/10/02 6:53:47

「“子どもたちを守る”ということ 」  ~ 大切にしたい三つの“安”~

保護者の皆さまから託されて保育に携わる幼稚園には、「子どもたちを守る」という大事な使命があります。一口に「守る」と言っても、守り方にはさまざまな種類や段階があり、それぞれに相応しい“砦”を提供できたら、と願っています。

  • 危険から身を守る「安全対策」

まず、目の前の危険から「子どもたちを守る」ための“砦”が、「安全意識」を育てることと、さまざまな場面に応じた訓練です。

ある日の出勤前、テレビの情報番組から「秋の世田谷区交通安全運動(9月21日~9月30日)に向けて、フリーアナウンサーが世田谷署の一日警察署長を」というニュースが流れました。「世田谷区内では、子どもの自転車事故が多い」という気になるコメントとともに…。そして一瞬の間、画面の中に見慣れたフリップを見つけました。それが、毎年、保護者の皆さまにお示ししている警察庁からの「自転車安全利用五則」です。

1) 自転車は、車道が原則、歩道は例外 

2) 車道は左側を通行

3) 道は歩行者優先で、車道寄りを徐行 

4) 安全ルールを守る

★飲酒運転・二人乗り・並進の禁止 

★夜間はライトを点灯

★交差点での信号厳守と一時停止安全確認  

★運転中の携帯電話等の使用・傘さし運転の禁止

5) 子どもはヘルメットを着用

佼成学園幼稚園の子どもたち・保護者・職員が、誰一人として事故に遭わず、また事故を起こすことのないよう、切に願っております。これからヘルメットを準備される方、一日も早く、子どもさんのお気に入りのものを探してあげてください。

地震や火事を想定しての避難訓練。子どもたちは皆、毎月の訓練に真剣に取り組んでいます。訓練の最後に、子どもたちの前で短い「講評」をしているのですが、そのときのメッセージが、「なうしか」(『造語集憲(●)辞苑』より)です。もちろん、ジブリアニメのタイトルの語呂合わせです。

かない  

ごかない

ゃべらない  

おをみる

実は、9月に入って、「当面予想される、ありとあらゆる危険から子どもたちを守っていくにはどうすればいいか?」という担任たちの真摯な危機感によって、佼成学園幼稚園に二つの訓練が導入されました。一つは「Jアラート発令時の訓練」。もう一つは「不審者侵入に対する訓練」です。

9月11日、運動会の練習中に、笛の合図で、突然「不審者訓練」は始まりました。不意のことで、多少の戸惑いや動揺も見受けられましたが、子どもたちは冷静に担任の指示に従っていました。待避した場所での“水を打った静けさ”。誰一人おしゃべりすることなく、「四百数十名の子どもたちが、今ここにいるのか?」と思わせるほどの静寂に包まれた私は、言葉にならない感動を覚えました。そして、心の中で「アッパレ!」の賛辞を送っていたのです。子どもたちの姿をとおして、改めて日頃の訓練の大切さを痛感いたしました。

不審者対応には、全国普及版の防犯標語である「いかのおすし」がよく知られています。

いか…(知らない人について)いかない

…(知らない人の車に)らない

…(危ないと思ったら)おきなこえをだす

…(その場から)ぐににげる

…(大人の人に)らせる

子どもたち自身が、いざというときに適切な行動がとれ、そして自らを危険にさらすことのないよう、繰り返し子どもたちへの意識付けを図ってまいります。ご家庭内におきましても、「今日の夕飯はお寿司だよ。ところで、『いかのおすし』って何だっけ?教えて」といったふうに食卓の話題にしていただけると、子どもたちは、遊び感覚で(これが大事!)認識をより深めていくことでしょう。

 佼成学園幼稚園では他にも、4月には全学年の「引取り・引渡し訓練」、2月には年長児対象の「危険回避プログラム」を実施しております。

  • 成長の礎(いしずえ)となる「安心感」

在園中の子どもたちに「安心感」という“砦”を提供することも、「子どもたちを守る」ことに通じます。「大切なものは目に見えない」は、有名な言葉です。子どもたちを含めて保護者・職員を守ってくれている「目に見えない偉大な力」、換言すれば、すべての命の根源である「宇宙の大生命」を、仏教では「仏さま」と呼びます。もちろん仏像も「仏さま」なのですが、それは本体である「目に見えない仏さま」を誰にもわかりやすくするために、象徴的に現したものなのです。私たちは、至心に仏さまに手を合わせることによって、仏さまから守られていることを魂で感じることができます。その「安心感」があってこそ、子どもたちは成長していくのです。区内屈指の園児数の佼成学園幼稚園が、つつがなく日々の保育を継続できるのも、決して当たり前のことではありません。「見えない仏さまに守られている」ということを日々感じながら、子どもたちに向き合っています。  

ところで皆さまは、バス駐車場の片隅にある「母子像」と「合掌童子像」のことをご存じでしょうか。「母子像」は、昭和62年4月に、三代目園長泉田佳子先生が寄贈してくださり、台座に刻まれているのは、「いつの世も 母なる心を 伝えよう」の言葉。「母親の懐に抱かれたような、安心感のある保育を!」との祈りが伝わってくるようです。また、「合掌童子像」は、昭和60年3月に、ある保護者が、園児たちの健全な心身の成長を願い寄贈してくださいました。安心感を支えに、素直に手を合わせることの純粋性を、私たちに示してくださっているのだと思います。これらの像に込められた思いを知れば知るほど、守られて成長できていることの喜びが、ふつふつと湧いてきます。

「子どもたちを守る」という観点からすれば、保護者の皆さんの「胸名札の着用」「挨拶の励行」も、子どもたちへ提供したい「安心感」と無縁ではありません。「人々が互いに顔見知りであり、互いに挨拶を交わし合える地域では犯罪が少ない」とは、前任の専門学校時代、防犯教育でお世話になった警察官の話です。直接的な因果関係はないように思われるかもしれませんが、(目に見えない)地域の雰囲気は、子どもたちに「安心感」を与え、「子どもたちを守る」大きな支えになるのです。日々の小さな実践を、こつこつと続けていかなければなりません。中でも、挨拶は心がけ次第。子どもたちに「挨拶しなさい」と求める前に、大人から率先して、気持ちの良い明るい挨拶を交わし合いたいものです。そのことが、どれほど子どもたちに「安心感」を与えているかわかりません。

  • 生きぬくための「安定力」

保育に携わる者の最大の願いは、一人ひとりの子どもたちが、幼稚園で身に付けたことを、まずは小学校で、そしてゆくゆくは社会で活かしてくれること、ただその一点です。子どもたちがそれぞれの長い人生の中で、自らが自らを守っていくための揺るぎない“砦”づくりの第一歩を、幼稚園で踏み出してほしいのです。どんな波風にも負けない「安定力」が身に付けば、盤石の自信をもって生きぬいていくことができます。

「投げられたところで起きる小法師(こぼし)かな」は、私の好きな古歌の一つです。小法師とは、「おきあがりこぼし」のことで、「どんなところに投げられても、重心がしっかりしている小法師は、すぐに立ち上がれる」というのです。重心を「自己の確立」と置き換えるならば、「自己を確立していれば、どんな境遇でも生きぬいていくことができる」と読み解くことができます。「自己の確立」こそ、第三の“砦”です。幼年期に築かれた「安定力」の芽生えが、その後の人生を支え、「自分で自分を守っていく」ことになるのです。

私は、来るべき10月の運動会のプログラムに、次のような挨拶文を書きました。

子どもたちは、競技や演技をとおして、「勇気をだして、困難なことに挑戦する」「最後まで諦めず、目標に向かって努力する」「大切な仲間たちと、互いに励まし合う」という姿を見せてくれることでしょう。それらはどれも、「人としての生き方」の基盤そのものに他なりません。

上の文を起草した直後、私は書店で平積みになっている『世界標準の子育て』(船津 徹著:ダイヤモンド社)という一冊の本を手にすることになります。子育ては、千差万別の子どもと母親の組み合わせですから、一般的には「子育てに正解はない」というのが定番です。その言葉によって、子育てに悩んでいる多くの母親が救われていることも、よく承知しています。ところが、その本の帯には、「子育てには、『正解』があります」との赤い文字。色ばかりでなく、その挑発的なコピーに目が留まり、思わず手が伸びて…。著者は、0歳から18歳までの子育てについて詳細に述べる中で、「世界標準の子育て」の根幹となる三条件は、「自信」、「考える力」、「コミュニケーション力」である、と主張しています。先の「勇気をだして、困難なことに挑戦する」は「自信」に、「最後まで諦めず、目標に向かって努力する」は「考える力」に、「大切な仲間たちと、互いに励まし合う」は「コミュニケーション力」に符合していることに、私は意を強くしました。と同時に、佼成学園幼稚園の保育は、間違いなく「子育ての世界標準」を志向している、ということを確信したのです。

子どもたちの前途には、大小さまざまな障壁が待ち構えていることでしょう。「安全」「安心」「安定」という三つの“砦”を基地として、大いに飛躍してくれることを期待しています。(♪「安・安・ 安 とっても大好き 幼稚園」♪)

  松森憲二拝

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